ノルベルト御一行様
日本語レッスンとよべるようなものではなかったが、
毎週月曜日の午後五時から一時間、
ブラジル人研修生たちと、日本語片言会話は続いた。
陽気なラテンのブラジル人でも、はにかみ屋さんがいた。
小麦色の肌のイケメンだが、笑顔は向けてくれるものの話さない。
聞けば、かなりの照れ屋だという。
ラテン系は基本は明るいけど、やはり、いろいろな人がいるなぁと改めて思った。
ノルベルトはいつも明るく、覚えた単語をすぐ話すので上達も早かった。
そんなある日、ノルベルトから尋ねられた。
「ディズニーランドに行きたいんだけど」
日本に滞在している間に、東京ディズニーランドに行きたいというのが、
皆の希望とのことだった。
頼みのIさんは、同行しないという。
彼らだけで、東京ディズニーランドに行けるのか?
一瞬、不安になった。
日本語は片言しか話せない。
先輩と顔を見合わせたら、ノルベルトが笑顔で言った。
「だいじょ-ぶ、だいじょ-ぶ!」
なんだか、大丈夫な気がした。
乗り換えなしで、彼らだけでも無事に行ける方法。
そう!
東京ディズニーランド往復 夜行バス!
しかも、市内のシティホテル前からのツアーがある!
私は、翌日、近畿日本ツーリストに電話した。
ブラジル人のグル-プで申し込みしたいと伝えたところ、
「えっ!何語の方たちですか?」
当時、ブラジル人在住者などいなかったので、
かなり驚かれた。
片言の日本語が話せることを伝え予約をし、
早速ノルベルトに知らせたら、めちゃくちゃ喜んだ。
※数十年前のことなので、日にちは覚えてなく、
確か、七月後半か八月だった。
翌週のレッスンから、ツアー前の研修のように、
時間厳守、
東京ディズニーランドでの注意事項などなど、
Iさんに通訳をお願いし、説明してもらった。
出発は、夜中12時。
11時半にはシティホテル前に集まる約束をした。
私は、先輩と彼らを見送ることにし、
彼らとの約束より早くホテル前にいた。
陽気なラテンは、時間を守れるか?
早くも心配になる。
「こんばんは!」
ノルベルトの明るい声。
皆、会社では見ないジ-ンズ姿で、ちょっとカッコイイ。
「一、二、三・・・」
私が添乗員のように人数を数えたら、笑い声が起きた。
「皆、来てる?」
Iさんも見送りに来てくださった。
バスが来るまで、Iさんがポルトガル語で最終注意。
皆、ニコニコ顔で、こちらまでウキウキしてくる。
バスが来た。
近畿日本ツ-リストのかたが、
「ノルベルト様御一行」
と名前を読み上げた。
「なんで、ノルベルト?」
先輩が私に尋ねた。
「覚えやすいと思って」
皆、また大声で笑った。
バスのナンバープレートを指さし、
全員にメモしてもらい、
Iさんに、帰るときは、必ずこのバスに乗ることを
通訳してもらう。
「大丈夫だよ。日本だから」
心配する私に、Iさんは笑顔で頷いた。
一人、一人、バスに乗るのを見つめ、
最後にノルベルトが乗るとき、
先輩が、ビ二-ル袋を渡した。
「バスの中で、食べてね」
なんと、パンとパックジュ-スの差し入れだった。
「やっちゃんは、予約とか頑張ってくれたからさ」
少し照れたように彼女は笑った。
バスの窓から、皆が手を振って私たちを見ている。
「いってきま-す!」
口々に叫んでいる。
「いってらっしゃい!」
「楽しんできてね-!」
手を振って見送る。
バスの中から、彼らも手を振っている。
乗ったことはないが、船の旅というのは、
こういう風に見送るのだろうか?
と、ふと思った。
バスが見えなくなるまで手を振った。
週明け、朝一番にノルベルトが事務所に来た。
「ありがとう。とても、とてもたのしかった!」
何度も言った。
その日から、しばらくの間、
日本語レッスンの内容は、
彼らの東京ディズニーランドの思い出を話す場となった。

